なぜぼくらは月間30日、無料で機械学習勉強会を実施するのか【連載】AI People vol.1

AI People

Team AI Blogでは、人工知能(AI)に携わる人々にインタビューを行い、彼らの歴史とAIの今後について考えていくシリーズ企画を開始しました。

第一回はTeam AI代表、石井大輔へのインタビューです。「100万人の機械学習コミュニティをつくり、シリコンバレーに進出する」という目標を掲げ、無料勉強会の開催やAIエンジニアの転職支援を行う石井に、TeamAI発足の経緯を聞きました。(聞き手・執筆:佐藤大生)

 

AIの知識をもっと身近に

東京都渋谷区のマンションの一室で、AIについて熱く語り合う勉強会がある。その勉強会は月に30日、無料で開催されている。

「AIの知識をもっと身近なものにする。それが我々のミッションだ」

そう語るのは勉強会の主催者であり、Team AIの代表 石井 大輔(いしい だいすけ)。

「今、普通のエンジニアがAIの知識を得るためには、高いお金が必要になる。AIの知識をコンビニエンスストア並み、具体的にいうとHTMLやCSSくらい身近なものにしたい。もっと気軽にみんながAIの開発をできるようなったら、10年、20年後はワクワクするような未来になる」

石井がこのような考えをするのは2015年にシリコンバレーで挫折があったから。

なぜ、石井は勉強会を始めたのか。どのようにしてTeam AIは成長してきたのか。今日は石井の過去について掘り下げていこう。

 

世界中を飛び回る商社マンが抱いたシリコンバレーへの憧れ

今から20年ほど前。大学を卒業した石井は総合商社である伊藤忠商事に就職した。主な仕事内容は、ロンドンやミラノなどで新しいアパレルのブランドを発掘すること。

 

「退職するまでの間に飛行機に500回ほど乗った」と石井は話す。

彼は海外を飛び回るビジネスマンであった。

 

伊藤忠商事を10年勤めた後、独立。E-Commerceのコンサルの仕事を始めた。その仕事の中でアメリカ西海岸、シリコンバレーへ行く機会があった。

「シリコンバレーで活躍する創業者たちと話す機会があったが、日本と比べて明らかにレベルが違った。みんな想像できないくらい優秀だった。これが世界レベルだと感動した。各々のレベルが高いだけでなく、初対面でも本気でで協力しあっている。
『お前のビジネスモデルだったら、この会社が参考になるよ』、『あの人紹介してあげるよ』などと情報を与えあう。
ITの異様な盛り上がりや、世界から移民して来た天才社長たちが集まり協力しあう環境にビジネスマンとして強く感動を覚えた」

そう話す石井は帰国後、シリコンバレーで行われているOne Tractionという三ヶ月間の起業家育成組織に申し込んだ。(参考:ブログ「シリコンバレーの起業家育成組織に合格しました」

運良く合格した石井は、早々に東京のマンションを解約し、米国へ移住すべく再びシリコンバレーへ渡ったのである。

 

「日本に帰ったら?」プライドをへし折られたシリコンバレーでの日々

One Tractionでは参加者一人一人にビジネス育成メンターがつき、週に一度サポートをうける。

一週間でビジネスがどれくらい伸びたかを報告し、次にどうすればいいかのアドバイスがもらえる。

 

石井が当時行っていたビジネスはTシャツなどを売るECサイトの運営。

しかし、順調にアクセルは踏めなかった。

 

「シリコンバレーでは挫折だらけだった。私自身がコンサルタントあがりだったため、口は立つ自信があったが、ビジネスの実行力がまだまだなかった。ECサイトの売り上げも全然伸びないし、ビジネスプランコンテストでも良い評価がもらえなかった。
『日本へ帰ったら?』、『学校に入り直して、ビジネスを学び直したら?』など厳しいことを言われることもあった。
ビジネスコンテストでプレゼンする時、あまりに周りの反応が悪く、その場から逃げ出したくなることもあった。
一緒に参加した同期の人たちは非常に優秀な人ばかりで、実際にすばらしいビジネスを始めているのに対して、自分は……と、悔しい思いをした」

 

それでも石井は数多くの戦略を練りビジネスを伸ばそうとした。ネット販売だけでなく、最終的にはオフラインでの販売も始めた。それでも業績は思うように伸びなかった。そこである1つのアドバイスと出会う。

 

「私はECサイトのビジネスをしていたが『AI、ロケット工学、遺伝子工学といった最先端なものでないとシリコンバレーではクールではないんだよ』というメンターからアドバイスを受けたんです」

 

結局、ビジネスの芽を見いだすことができないまま三ヶ月が経過した。それでも、ビジネスマンとして多くのことを学んだ石井は、「成長して、もう一度戻ってくる」と闘志を燃やし日本へ帰国した。

 

独学でプログラミングを勉強する日々

日本へ帰って来た石井はバックエンドプログラミングの勉強を始めた。半年間、仕事をせずに本腰を入れておこなった。

商社あがりの石井はプログラミングについての知識が少なかった。シリコンバレーで己のプログラミングの知識の少なさを痛感し、0から学び直そうと考えたわけだ。

一通りの勉強を終えたあと、石井は数人でチームを組みプログラミングの受託開発業務を始めた。お金がなかったため、渋谷で一番家賃が安い場所に事務所を構えた。事務所の広さはわずか2畳。主にRuby on Rails、iOS、Androidなどのアプリケーション開発をした。日本での再スタートが始まった。

 

もっとクールに! 最先端への挑戦

「仕事をとれるようになってはきたが、ライバル会社はたくさんある。このままアプリケーション制作会社でいいのかなと思っていた」と石井は話す。そんな時、シリコンバレーで教わった「最先端なことに挑戦することがクールなんだよ」という言葉を思い出し、AIの仕事を始めることにした。

この時点で石井をはじめ、チームのメンバー全員AIに対する知識はほとんどなかった。それでも、AI仕事マッチングのページを立ち上げた。すると、なんと次の日いきなり仕事がはいったのである。

「今まではこちらから営業しなければ仕事がとれなかったのに、AIの仕事はランディングページ一つで仕事がとれた。『これは伸びる』と今までにない手応えを感じた」

 

石井の予感は的中した。それからは定期的に仕事が入るようになった。

「今まで、多くの新規ビジネスを立ち上げたが、その中でも非常に大きな可能性を感じた仕事だった」石井は続けた。

 

このとき、現在の月30日無料勉強会の原型となる、AIの勉強会も始めた。当時はお金がなかったため、勉強会は無料スペースやカフェなどを探して行った。

「吉野家で勉強会を開いたときがあったが、その時参加者が15人を超えてしまい、『さすがに勘弁してくれ』と店長に怒られた」と石井は話す。

それでも何か大事な物を見つけた確信があり、会場を探しながら勉強会は続けた。

 

良いAI案件を良いエンジニアへ

Team AIの主催企業である株式会社ジェニオの主なビジネスモデルは、AIの開発案件のマッチング。

「AIを導入したい」という企業と要件を詰め、その要件にふさわしいスキルと価格を持った開発パートナー企業をアサインすることがビジネスだ。

現在、パートナー企業は10社、エンジニア数では130名ほど。各社の強みも、自然言語処理、画像解析、音声認識、金融時系列データ分析など多岐に渡っている。

また、最近ではAIの開発案件だけでなく、AIに関するコンサルタントや教育セミナーの仕事まで入るようになってきた。

 

事務所も2畳の部屋から10畳ほどの部屋にランクアップした。勉強会は現在でも続いている。しかも毎月30日、無料で開催されている。

 

「なぜ勉強会に力を入れるのか?」と尋ねてみた。

「一番は私自身が先端技術を学ぶのが楽しいから。また、勉強会を開きコミュニティーが広がることで、最終的には会社の利益になる。『勉強会で成長したエンジニアが現場に出る』といった素晴らしいサイクルもできつつある。あとは、AIの知識をもっと身近なものにしたい。まだまだ人工知能を学ぶハードルは高い。これをコンビニエンス並みに皆の手の届く所まで行き渡らせるのがも我々のミッションだ」

 

「今後の目標は?」

「世界で見た時、AIの最先端はシリコンバレー。ここは揺るがないと思う。だけど、アジアで見たときのAIの最先端は?と言われた時、”東京”と言われるようにしたい。

 

シリコンバレーのように、”知識の踏み込んだ共有や全世界の人の交流”が活発に行われるコミュニティーを作りたい。現在、Team AIの会員数は2000人ほど。これを何としても100万人まで増やしたい。そして、最終的にはシリコンバレーそのものに本格的に進出したい」

これが石井、そしてTeam AIの現在までの歴史だ。今夜も石井を中心に勉強会は開かれている。Team AIの物語は始まったばかりだ。