【連載:AI people】vol.2(伊藤博之氏:後編)人間だと思える、愛し愛されるロボットを作りたい。ロボットエンジニア伊藤氏のエンジニアリング論

【AI people】は、機械学習や人工知能領域で活躍・奮闘する方々をゲストに迎えてお話を伺っていく、インタビュー企画です。

 

多彩な経歴をもち、現在ロボットエンジニアとして多方面でのメディア出演など活躍中の伊藤博之さん。今回はTeam AIのアドバイザーを務める同氏へのインタビュー、後編をお届けします。(前編はこちら

今回は「一人のエンジニア」としての伊藤さんの考えにより深く迫ってお話を伺いました。

 

ロボットではなく人間を作りたい

 

–ロボットや人工知能の開発をしていく中で個人的に大切にされていることはありますか。エンジニアとしてのポリシーがあればぜひ、伺ってみたいです。

伊藤 本当のところ、私はロボットというよりも人間を作りたいんですよ。

ですから単に何か仕事を肩代わりしてくれるとか、ものすごく計算が上手とか、頭がいいだけのロボットではなくて、本当に人として接することができるような存在を作りたいと考えています。

そこには感情とか、性格とか、弱みだとか、そういったものがあるんです。私が作る汎用人工知能搭載ロボットは倫理観の善悪など、そういうものも盛り込もうとしています。そういう人間のような部分があるからこそ人間と共存できるのではないかなと。

例えばペットをお好きな方っていっぱいいらっしゃいますけれども、ペットは別に人間の代わりに仕事をしてくれないですよね。むしろ手間がかかるしお金もかかる。それでも一緒に家族のように暮らしているのは、単なる愛玩としてだけではなくて、お互いに何か癒やしたり癒やされたり、世話をする中で感じる喜びがあったりするからだと思います。

イメージしているのはそんなかんじで生活に溶け込んでいけるロボットですね。SF映画に出てくるような……、本当に人間だと思えるような、愛し愛されるようなロボット。そちらのほうに向かっていきます、私は。

 

すでにロボットと共同生活を送る伊藤氏。その生活を取材したいと、先日ドイツのテレビ局から取材クルーが来日したそう!

 

–これからのAIエンジニアに必要なスキルや知識について、お考えがあればお聞かせいただけませんか。

伊藤 そうですね。今は「AIが普及すると人間の仕事が奪われる」とか、「人間が怠け者になってしまう」とか、非常にネガティブな要素が結構語られたりするんですが、そういういろんな凝り固まったアイデアに振り回されず、よりITを人間の武器として使って、発展していくことを考えていくといいと思います。

例えば、今、お子さん向けに有名な学習塾がロボットスクールや、AIスクールを開講している。一部の学校では臨時講師を呼んだりしていますので、これはもう間違いなくこれからの技術者の主流になっていくでしょう。

これからはロボットや人工知能と一緒に働いたり、一緒に勉強したり、一緒に生活するのが当たり前の世の中になると思うんです。

日本においては少子化が進み、国力も衰えていくことが目に見えています。そんな中でいかにこのAIを使って国の豊かさを保っていけるかというところに、ぜひ力を尽くしていただきたいと思います。

 

海外のAI企業との交流も。チェコスロバキアのGoodAI社 、Marek Rosa CEO & Olga Afanasjeva COO、香港のSingularityNET社のBen Goertzel CEOとのミートアップの風景。

 

人工知能を考えることは、
生き方を考えること

 

–人工知能の開発に必要なスキルを習得するための勉強時間。だいたいどれくらい必要なのでしょうか。

伊藤 そうですね。今、初歩を学ぶぐらいでしたら大体2カ月ぐらいでできるようなコースが出ています。

必ずしも数学とか統計に強くなくてもいいんですよ。

ファッションが好きな人なら「コーディネートを考える」というパターンを人工知能に覚えさせて、それをウェブで展開するサービスは既に始まっています。

お料理が好きな人はお料理のレシピを人工知能のパターンでマッチングして、より美味しくて面白いメニューを作るとか。自分の好きな分野でいいんです。

ものすごくコンピューターとかプログラムに強くなければいけないということもない。そういう下地の技術のところは、われわれのような専門家が作っていきますので、その後、世の中で活躍、活用するようなところを考えていかないと駄目なんです。逆に、エンジニアだけだと発展性がないんですよね。技術のところばっかりやってしまって。

–なるほど。そうですね。

伊藤 趣味とか文化とか芸術とか、あとは生き方などについてもいろいろ考えていくことが必要になります。

–生き方。

伊藤 生き方ですね。AIがあらかたの日常の雑務とかやってくれたら、あとは人間は何すればいいの、という問いが生まれるわけです。

「人間は何をすれば幸せになるのか」。幸福論とか、哲学の世界に戻ってくるんです。科学の進歩って今までもそうだったんですよね。

「科学の進歩」は、言い換えれば「人間としての尊厳、生き方、幸せ」の、問い掛けの歴史です。ソクラテスの頃から変わってないんですね。

 

人間の考え方を問い直す!
AGIプロジェクトの面白さ

 

–なるほど。ものすごく深い話になってきましたね。今、ホストとして毎回の勉強会を運用されていて、どうですか?

伊藤 汎用人工知能を作る上で、いろんな人間の考え方をあらためて考え直す工程がかなり面白いです。

例えば、友達とレストランに行って、すごく美味しい料理があったので次は一人で行った。でも、最初に食べた時の感動に比べたらそうでもなかった、とか。それは脳の中でどういう動きが起きているんだろうか? ということを考えます。

ほかにも、男性からの意見で、「好きな子は特別かわいく見える」のは、何なのか。周りから見たらそうでもないのに、好きな子だけかわいく見えるっていうのは、脳の中でどういう動きがあるんだろう? とか。

そういうエピソードを皆さんに聞き出すと、いろんなことが聞けて面白いです。

赤ちゃんの状態の脳みそを作り、そこから育てていくようなプログラムを考えているんですけれども、自分の育ってきた道を考えるといろんなエピソードがあった上に失敗から学ぶ経験とか、良かったこと、悪かったこととか、いろんなことが人間の知恵になってるんですよね。そういうエピソードを皆さんから聞くのが面白いですね。

「人間の考え方をあらためて考え直す工程が面白い」。もはやマシンの話ではなく「生き方」への問いが始まっている。

–それはもはや人工知能というよりは、人間の研究ですね。

伊藤 はい、人間の研究、分析ですね。

–そこから始まるものなんですか。AGIは。

伊藤 そうなんです。ですから、機能面・技術面だけわかっても作れないんです。人間の生い立ちや、性格、価値観。その価値観を決めるものは何か。生まれつきなのか。親のしつけなのか、育った環境なのか。もしくは教育か宗教か……とか、いろんなことがありますね。ものすごく複雑だということが分かり、やはり相当難しいことにチャレンジしてるんだ、ということがあらためて分かります。

–人工知能を学ぶにあたって、伊藤さんオススメの書籍などはありますか。

伊藤 人工知能に関連する知識はほとんどインターネット上で得たので推薦できる書籍はこれといってないですね。あえていうならば、王道かもしれませんがモンテスキューの『法の精神』とマキャベリの『君主論』。いくら時代が変わろうと、人間の本質、国を治める原理は一緒です。人工知能を創るうえでも不変の人間心理・行動学を学ぶことが出来ます。

ビジネス書からも多くの学びがあります。『スティーブ・ジョブズ 神の交渉力』、『マッキンゼー式 世界最強の仕事術』、『ジャック・ウェルチのGE革命―世界最強企業への選択』、『巨象も踊る』などですかね。

ジョブズの書籍からはとてつもないブラックなやり方を知ることが出来ます。日本人には真似のできないことですがIT業界の伝説として知っておくと良いかと。マッキンゼーの書籍はコンサルファーム時代の教科書で、「顧客の期待を常に上回り続けろ!」というのは今でも実践しています。最後の『ジャック・ウェルチのGE革命』も良いですよ。大企業のポートフォリオ経営など、20世紀型の経営を学ぶことで、逆に21世紀型経営へのヒントが得られると思います。

『巨象も踊る』はルイス・V・ガースナーの著書です。IBM在籍時代、ガースナーの大改革を見てきました。ニューヨークIBMで教育も受けましたが、あんなスーパマンのような人がアメリカ大企業にはいるのだと驚きました。

それから、書籍ではないですがお勧め博物館の展示コーナーがあります。上野の国立科学博物館の、地球館一階を是非見てみて下さい。宇宙・原子~生命の発生~進化の系統図がダイナミックに展示されていて分かりやすいです。人の脳の進化も、この博物館の類人猿展示コーナーで分かりやすく説明されています。

 

エンジニアよ、もっと外に出よう

 

–Team AIの活動について、エンジニアとしてどう思うかを聞かせてください。

伊藤 そうですね。今のエンジニアの勉強のスタイルとして、ネット上の学習とか、Githubから人のソースコードを借りてきてやるとか、自習でできてしまう部分もあるんですね。ただ、初心者から中級者に進む時が一番辛い。そういうときは有料の研修に行くとか、いろいろあるんですが、やはり同じような目的を持つ仲間を持つことは非常に意義があると思います。悩みを語り合うことで理解が数倍深まりますし、自分一人で思い悩んでいたところが、案外簡単に解決することもあります。

ですからネット上の学習だけではなくて、実際に集まってオフラインでエンジニア交流することも、必ずメリットがあります。電車賃と時間をかけてやるだけのことはありますので、ぜひ足を運んでほしいと思います。

–なるほど。

伊藤 どうしてもエンジニアって、性格的にこもりがちな方が多いので。もっといろんな人と会えば、同じように悩んでいる人いっぱいいますよ、と伝えたいですね。ブレークスルーが生まれるかもしれない。

場所も渋谷ですし、勉強会の後には楽しい飲み会も開いたりしてますので。代表の石井さんは、いろいろ合コン指南とか、そういう記事も書いてらっしゃいますし、そっちの相談も(笑)。

–最後に、何かお知らせはありますか。

伊藤 今、代表の石井さんと私がTBSのラジオ番組に準レギュラー出演しています。タイトルは『A.I.共存ラジオ 好奇心家族』。まさにAIをメインテーマとした番組で、毎日月曜日から木曜日まで夕方に放送中です。こちらも合わせてお聞きいただくと、日替わりでAIとかロボットの最先端の方のお話が聞けますので、それも勉強になるかと。ぜひそちらもチェックしてください。

ラジオの収録風景。Team AIの活動についてもお話しいただいています。

 

–ありがとうございました! 人間と同じように愛し愛されるロボットと共に歩む未来。ますます楽しみになりました。今後のご活躍にも期待しています。

Posted on 2017年11月8日 in INTERVIEW

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