ヒト、モノ、カネは経営の三要素ですが、ここ一番のタイミングで融資が受けられず、新規事業への参入や設備投資を断念する企業は少なくありません。一般的に、金融機関の与信審査では決算書が判断材料となりますが、一年に一度の決算書だけでは正しい評価が得られないこともあります。
そこで決算書よりもリアルタイムなデータソース、例えば月次試算表や銀行口座のトランザクションをインプットし、それをAIに分析させることにより企業の実態に近い評価を得られやすくする仕組みを作ったのが今回取材した株式会社ココペリです。この仕組みを、金融機関向けAI与信モデル「FAI(ファイ)」として展開しています。
同社ではこの事業の他にも、企業の法的課題をスムーズに解決する中小企業向け専門家相談サービス「SHARES(シェアーズ)」や、バックオフィスのBPOを手掛けるなど、様々なサービスを通じて、中小企業の支援を行っています。
今回は代表取締役の近藤繁(こんどう・しげる)さんにお話を伺いました。
AIなどのテクノロジーを活用し、中小企業の成長を支援する
- まずは御社の事業内容から、改めてお話しいただけますか。
近藤 「企業価値の中に、未来を見つける」という経営理念のもと、テクノロジーを活用した中小企業の成長支援を目的としたサービスを展開しています。その中でも特に急速に拡大しているサービスが2つあり、1つは、中小企業向けの専門家相談サービス「SHARES(シェアーズ)」の運営、そしてもう1つは金融機関向けソリューション事業です。
- サービスの内容を、それぞれ詳しく教えていただけますでしょうか。
近藤 「SHARES」は、中小企業と専門家を結ぶマッチングサービスです。専門家には弁護士や弁理士、司法書士、税理士や社会保険労務士など8士業、およそ1,200人が登録しており、対する企業は業種問わず約5,000社以上が登録しています。
- 1,200人! かなり多岐にわたる分野の専門家が登録しているのですね。
近藤 企業で何か法的ニーズが発生したとき、誰に相談してよいかわからず、困るケースは少なくありません。
例えば、外国人エンジニアを初めて雇いたいときに、ビザをとりたいがどうすればよいか。就労ビザの取得方法から調べていくのでは時間がかかってしまいますし、専門家を探すのもなかなか大変ですよね。そのあたりの最適なマッチングをAIが行うのが「SHARES」の特徴で、企業は相談内容をインプットすればAIが問題の解決にふさわしい複数の専門家を紹介します。
- どの専門家に頼めばよいか、こちらが判断しなくてよいわけですね。それは便利ですね…!
近藤 「SHARES」の特徴はもう一つあります。それは圧倒的なスピード感です。
例えば、顧問弁護士をつけていない企業が弁護士に何か案件を依頼したいとなったら、弁護士探しから始めて、アポイント、顔合わせ、打ち合わせ、依頼……と段階を踏む必要がありますよね。早くても完成までに3~4週間はかかってしまうでしょう。
しかし、「SHARES」なら早ければ1時間程度で見積もりまで取得できてしまうんですよ。
- 1時間!? それは早いですね!
近藤 これは「SHARES」が単なるマッチングサイトではなく、チャット機能や決済機能まで備えているためです。
コミュニケーションがWeb上で完結するので、効率的に問題が解決できるわけですね。
- もう1つのコアサービスである金融機関向け与信モデル「FAI(ファイ)」の内容を教えてください。
近藤 中小企業の財務データや銀行口座のトランザクションをAIが分析し、精度の高い企業の与信スコアを出力するエンジンを開発しています。
中小企業の与信審査は通常、決算書で行われることがほとんどですが、中小企業は財務状況の変化が激しいので年1回の決算書では評価しづらいのが正直なところ。そのため、金融機関はリスクを避けて融資に踏み切れないケースもあるんです。
当社の提供するサービスは、金融機関に業務効率化をもたらし、評価精度を高めることで中小企業が融資を受けやすい状況にするのが狙いです。
- どんなアルゴリズムを使っているのですか?
近藤 アルゴリズムとしては、深層学習や深層強化学習を使っています。また、FAIは企業の信用リスクを評価する「企業評価モジュール」と、企業の資金ニーズを予測する「資金需要予測モジュール」の2つのモジュールに分かれています。
上記モジュールのためにアルゴリズムを独自開発しているので、FAIは独自性の高いエンジンとなっています。
金融のスペシャリストがAIを構築するメリット
- お話を伺うと、金融機関の業務に詳しい人でなければ開発できなかったソリューションだという印象を受けます。
近藤 はい。実は私も金融出身なんです。
大学でコンピューターサイエンスを学び、その後メガバンクに入行しました。
当時は中小企業向けの融資を担当していたんですが、1人が100社以上の企業を担当するので、小さな企業まで手がまわらないケースを目の当たりにしていて。
理由は簡単で、融資額の多寡にかかわらず、融資を行うためにかかる手間や時間はほとんど同じだから。銀行員としては融資額の大きい案件を優先して進めてしまいがちなんです。
一方で行員の多くが、速やかな支援を必要としているのはむしろ中小企業のほうだと考えています。
こうした中小企業にまつわる課題を解決したいと考え、起業しました。
創業の目的が中小企業の課題解決なので、サービスもそれらの課題を解決することにフォーカスして作っていて、人工知能はあくまで課題解決するための必要なテクノロジーだと考えています。
- なるほど、元々、機械学習や人工知能を活用したビジネスを手掛けたいというビジョンを持たれていたわけではないのですね。
近藤 はい。ビジョンを持っていたというよりも、テクノロジーとして必要になったからAIを用いたというのが正直なところです。
AI与信モデルにおいては決算書ではなく、月次の試算表や口座のトランザクションといったインプット情報を用いて企業リスクを評価します。そのため、従来の統計モデルでは正しく評価することができません。
だからといって、一から新しい統計モデルを作るのは相当困難な作業。なにしろ口座のトランザクションとなると、データ量が膨大ですからね。しかし、ディープラーニングなどの新しいテクノロジーを用いれば、それが可能になると考えたんです。
- ありがとうございます。後編では、フィンテック業界の最近の傾向について伺っていきます。
株式会社ココペリ(後編) フィンテックとAIの融合で金融業界はどう変わる? 【AI company】vol.4
株式会社ココペリ:https://www.kokopelli-inc.com/
後編はこちら
株式会社ココペリ(後編) フィンテックとAIの融合で金融業界はどう変わる? 【AI company】 vol.4
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