AI people、3人目となるゲストは、大杉慎平さん。
東大大学院でデータ分析を専攻後、マッキンゼーへ。戦略コンサルタントとして活躍しつつ、今年9月から、一時休職して、東大の博士課程に戻るという道を選ばれました。
現在さまざまな取り組みをされていますが、中でも特徴的なのは人工知能の「物流業界」への応用プロジェクト。「スマートメーターの電力消費データを用い、将来の在不在予測AIを搭載した新たな経路探索アルゴリズムで再配送をなくす」というコンセプトで、再配達を劇的に減らすことができる仕組みを構築中です。
参考:大杉さんの NEXGEN LOGISTICS ウェブサイトより
Realizing Zero Re delivery through AI with HEMS data
「AI/IoTを使って産業課題を解決し、その解決手法そのものを教育として提供したい」という目標をお持ちの大杉さん。エンジニアとしての経験はなく、独学で機械学習を学ばれたとのこと。そんな彼に、現在取り組んでいるプロジェクトと、学びのプロセスについて伺いました。前後編に分けてお届けします。
人工知能を使って再配達をなくす
-まずは大杉さんが現在取り組んでいらっしゃる、物流業界に向けたプロジェクト「NEXGEN LOGISTICS」について伺ってもいいでしょうか。
スマートメーターから得られる電力データを元に、配達先が在宅しているかどうかを予測する……と。それによって不在の再配達を減らす、というプロジェクトですね。
大杉 はい。月並みかもしれませんが、 「AI/IoT を使って産業課題を解決し、その解決手法そのものを教育として提供したい」というテーマがあり、このプロジェクトはその中の一つです。
物流業界にコンサルタントとして関わる中で、価格圧力が非常に厳しい環境で、相当の改革・改善に取り組んでこられた業界だという認識を持ちました。
実際に従業員さんとか、本当にひたすらダッシュして配達していらっしゃるんです。非常に苦しい中で工夫を積み上げ、なんとか生き残ろうとする 、強い企業努力を感じました 。ここから更なる最適化を図るのは至難の技だろう…僕らが(コンサルタントとして)改善できる幅はどの程度のものだろう、と感じて。
じゃあ、AIを使ったら何ができるだろう? と考えたのがこのプロジェクトの始まりです。
蓋を開けてみてわかったことですが、現在、小口配送全体の2割ぐらいが再配達、再配送なんです(年間コストは数千億円単位)。僕も利用者の1人ですが、皆さんも実感あるんじゃないでしょうか……、「もう少し遅く来てくれれば受け取れたのに」とか、「今、近くにいるんだったらすぐ届けてほしい」とか。逆に時間帯指定をした場合は、その時間帯だけ家で待ってなきゃいけないとか、結構、満たされていない願いがあるな、と。もちろん配達するドライバーさんの側もかなり厳しい状況を強いられています。
–その問題を、人工知能で解決する、と。
大杉 はい。データさえ取れれば、最適化できるんです。2020年から東京電力管内はほぼ全て、2024年までには全国でスマートメーターが全戸導入されると政府が発表しています。
これにより取得できる電力消費の様子から、各家の在・不在を、現在だけでなく将来にわたって予測することができるのではないか。そしてこれを物流に連携すれば、不在先は回避できるのではないか、と。
ここまで仮説を立ててみて実際にプロトタイプを作って学習させたら、9割ぐらいの精度で30分後ぐらいまでの「在宅か不在か」を予想できるということがわかったんです。
この情報があれば、配達業者は、不在があらかじめ予測される配達先には行かなくて済み、不在による再配達の発生を回避することが可能になります。
無論、電力データも在・不在も個人情報ですから、企業の配達員や人が知るのではなくて、システムだけが用いるようにします。AmazonやGoogleが人々の好みを知っているのと同じですが、それでも、まだ使ったこともなく便利かもわからない以上、「なにそれ、怖い!」という反応は当然と思います。利用者にとっての便益の明確化や、利用許諾といったルールなど、慎重な検討が必要でしょうね。
–このプロジェクトはいつ頃から?
大杉 3カ月くらい前に作り始めたばかりです。
-これからどんなフェーズに進んでいくんでしょうか。
大杉 実証実験を物流企業の方と一緒にやっていくのが次のフェーズですね。それで本当にこの仕組みが有効であるかを検証する。
その次に、配達業務のオペレーションに実際に落とし込んで行きます。細かな部分の調整だったり、既存システムとの整合が必要になります。
何より日本で、このスマートメーターのデータを本用途に使えるかは、有用性に対する社会認識がどれだけ広まるかと、大企業・行政の意向によるところが大きいです。多分、そこに何年もかかると思うんですが、その間に他国が先行するかもしれませんね、米国や英国には、既に兆候がありますし。
このプロジェクトは、殆どSNS上かつ日本語でしか流してないのに、日系企業からコンタクトを頂いただけでも驚きましたが、いったいどこで聞きつけたのか米国の著名なファンドや中国のテック系ファンドの方が話を聞きにこられたりして……あぁ、これが違うのか、と。
物流業界における取り組みはOne of them。次の業界は……?
-今所属していらっしゃる研究室は東京大学大学院の学際情報学府、越塚研究室。専攻は何ですか?
大杉 コンピュータ・アーキテクチャ、特にIoTの研究室なので、何でしょうね。何でも屋です(笑)。
-越塚登先生は、IoT分野における研究で多大な功績を残していらっしゃる方ですよね。
大杉 そうですね。日本のIoTの創始者のお一人ですね。IoTという言葉が成り立つ何十年も前からこの構想自体を生んできた方たちのお一人ですね。
今も実際、教育や産業課題の解決に実際に取り組んでいらっしゃる。少しわかりにくいんですが、コースを英語名にすると「Applied Computer Science」と表記します。つまり、コンピューターの応用なんですよね。もとは「コンピュータシステムそのものを作る」から始まり、今は、「コンピューターを使っていかに世の中の課題を解決するか」っていうところまで専門的に取り組む。そんな感じです。
-これから研究室に入られて取り組んでいくこととしては、このプロジェクトがメインになっていくんですか。
大杉 実はOne of them、という感じですね。他の業界にどんどん展開していこうっていうことを今、やっていて。次は漁業です(笑)。
-漁業!(笑)
大杉 漁業。特に養殖産業ってものによるものの、利ザヤが薄いんですよ。需要と供給ですごい価格が揺れ動いて、それによって漁業家さんの収支がかなり不安定になってしまう現状があって。
1次産業の性ですが、家計でいうエンゲル係数、つまり餌にかかるコストがすごく高い。その部分の最適化が多分、機械学習やAIの技術で可能になると、僕らはもくろんでいます。こちらのプロジェクトは今やり始めた、というところですね。多分、今後も林業、農業とか、製造業とか、いろんなパターンを作っていきたいと思ってます。
-他にはどんなことを?
大杉 最初にお伝えした通り、最終的には教育分野への還元を考えています。「問題解決」って、すごく大事なことなのにどうして義務教育課程の中で教えないんだろう? という疑問を常々感じていて。僕自身、問題解決というものを、コンサルに入って初めてちゃんと勉強できたなと思っているんです。
これが、私が考えているもう一つのプロジェクトですね。日本のプログラミング教育の指導要綱はまだ完成していません。小学生に対しては2020年から義務化されますが、それを作る手助けというか、になるような研究にできたらということで、いろいろ教材開発とかをやっていくことになると思います。
「問題解決」の授業を義務教育過程に
-プログラミング教育の領域で「問題解決」の授業が始まるというのは面白いですね。
大杉 多分、プログラミングが面白いのって、人の問題解決力を養うポテンシャルがあるからじゃないかと思っています。もちろん教材開発次第なんですけれども。
プログラミングじゃなくて、算数、国語、理科、社会、図工でもなんでもいいんですけど、要は自分が直面する何か困ったこととか、隣の花子ちゃんが抱えているトラブルや問題を解決する手法ってどこでも勉強しないんですよね。僕はそれはおかしいなと思っていて。手法があれば、みんなが解決できるようになる。
イギリスなどでは実際に実施されています。本当に隣に座っている子の問題とか、何に困っているのかを聞き出して、それを実際にプログラミングでどう実現するのか、という授業を小学生の子たちが義務教育の中で受けているんですよね。
-日本にもそういった教育は根付いていくでしょうか?
もともと日本人って、課題解決、大好きなんですよ。だからきっと相性は良いと思います。なので、そういう取り組みを導入できるように、今、別のプロジェクトとしてやっています。
−ありがとうございました。後編では、大杉さんがプログラミングスキルを習得した勉強法などについて、より詳しく伺っていきたいと思います。
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