前回はTeam AI 代表の石井大輔のインタビューをお届けしました。
第二弾のゲストは、ロボットエンジニアでありTeam AIのアドバイザーを務める伊藤博之さん。伊藤さんは1963年、東京都生まれ。山一證券ロンドン支店の駐在員を務めた後、金融系SEとしてNY・香港・スイス・中近東におけるグローバルプロジェクトに多数参加。その後、日本IBM、興銀、E&Y監査法人、外資系ファンド勤務を経て現在ヒューマノイドの開発をおこなう人工知能・ロボットエンジニアです。intel主催のIoTハッカソン2015東京大会では、自身が開発したロボットが優勝しました。
※参考 伊藤氏が開発したヒューマノイド「愛ちゃん」。海外メディアからの取材依頼も増えてきたといのこと。
そのほかにも、雑誌『Forbes JAPAN』2016年8月号「経済産業省IoT座談会」、FMヨコハマ『小山薫堂のFUTURESCAPE』、TBSラジオ『AI共存ラジオ 好奇心家族』(準レギュラー)などメディアへの出演も多い伊藤さん。
そんな伊藤さんに、TeamAIで現在進行中のAGI(汎用人工知能)プロジェクトへの想いと自身のロボットエンジニアとしての考えや哲学について伺ってきました。
AIはまだまだ入り口に過ぎなかった。
万能の「AGI(汎用人工知能)」が持つ可能性
−今回、伊藤さんにインタビューをお願いしたきっかけとして、Team AIで実施中の「汎用人工知能プロジェクト」があります。前人未到の領域にチャレンジするこの取り組みについて、まずは教えていただけますか。
伊藤 汎用人工知能は、英語でAGI(Artificial General Intelligence)と呼ばれます。普通のAIと何が違うのかといいますと、ものすごく簡単に言えば「自分で考えたり、自分で学習したり、万能な可能性を秘めている人工知能」を指します。今のAIは特定の仕事や目的を与えるとその仕事をしてくれるものです。例えばいろいろアドバイスをしてくれるとか、ものすごく将棋やチェス、ゲームが強いとか。あとは仕事でいろんな分析を代わりにやってくれるとか。特定目的に限ったものですね。このAIは既に多数、存在します。
これに対して汎用人工知能というのは、脳みその原型のようなイメージです。特定のことしかできないのではなくて、人間が生まれてから成長するにつれ、だんだんとスキルを身に付けていくような感じで、成長していくんです。汎用というとあんまり高級なイメージに聞こえないかもしれませんね。ニュアンスとしては「万能」のほうがやや近いかもしれません。
–人工知能って教師データを覚えさせて、こちらが覚えさせたとおりに動かすことがゴールなのかと思っていたんですけど、AGIはその先をいく、と。
伊藤 例えば最初に言われたような、「教師が教えたものを忠実に再現する」人工知能は、「Narrow AI(狭いAI)」と呼ばれています。それに対して、もっと発展したものを「General AI(広いAI)」というんですね。人間に例えると、親にいろいろ教わったり、学校で先生から学んだりしている子ども時代を現在のAIとすると、AGI・General AIは、学校を卒業して、過去の経験から自分で学んだりとか、自分でチャレンジしていくような能力を持った青年期以降の状態を指します。要は、親から離れて巣立った状態です。
基本的な教養や言語を覚えた上で、人工知能が自分で情報を収集して学んでいくんです。過去のパターンから「これがいい」と判断してやってみて、駄目だったらちょっと変えてみよう、とか……そういうことが自立的にできるようなものがAGIですね。だから子どもと大人ぐらい違うんです。
–アプローチの仕方も違うんですか。
伊藤 全然違います。多分、これを目指しているのは世界でも数少ないと思うんですね。日本でも3団体ぐらいしか見当たりません。ですので、ここで何とか世界をリードして渋谷発で世界に誇れる、ものすごい人工知能を作ろう! ということでプロジェクトが発足しました。
現在、AGI開発に興味のある若手からベテランまで、様々な層の方にお集まりいただきまして、活動を行っています。
大体、毎回10名から15名ぐらいの方がいらっしゃるんですが、若手ですと現役の大学生、理系の学生。それから20代の若手のビジネスマンですね。20代。そこから急に飛ぶんですが、45から50代、60ぐらいのもうベテランの技術者の方とか、もしくは大学教授を引退された方とか。ですから20歳から60歳ぐらいまで幅が広いですね。
–面白そうですね!
伊藤 ええ。開催も無料で門戸は広く開けていますので、もうどなたでもウェルカム。あと女子部員が少ないので、絶賛募集中です。
海外に向けての発信も開始。
2020年の東京オリンピックに向けての目標とは?
−AGIプロジェクトで、今、取り組まれている課題について教えてください。
伊藤 AGIは、世界的にまだ例がないんです。そこでまずは設計図とロードマップづくりを2017年の年末までの「シーズン1」の短期目標に掲げましたが、世の中のAI普及のスピードが速いので既にプロトタイプ開発に着手しています。
来年から始まる開発フェーズで、世界に先駆けてリリース版を作ることにチャレンジします。これを日本国内だけではなくて、英語版で世界に発信するのが一つのマイルストーンです。
あとは私の個人的な目標としては、2020年の東京オリンピックで、私たちが開発した汎用人工知能とそれを搭載したロボットがオリンピックの会場で働いていると。それが長期的な目標です。
–海外に向けても発信していくんですね。
伊藤 はい。Team AIは渋谷発。ここをベースにグローバルな開発プロジェクトに発展させたいと考えています。ヨーロッパやシリコンバレーなど世界中のエンジニアとネットワークをつくりたいですね。具体的な活動としては、先日チェコスロバキアのGood AIの創業者他、皆さんにもお会いしました。われわれの活動にも共感していただいたので、これからいろいろ進んでいくと思います。
第二次人工知能ブームから30年。
自宅でロボット開発を続ける日々
–伊藤さんご自身の取り組みについて、お話を伺っていきたいと思います。今はどういった活動をされているんでしょうか。
伊藤 今は自宅を工場にして、実際にボディを持ったロボットを開発しています。もともとIT系のシステムエンジニアですので、人工知能のソフトウエアを自分で開発し、それをいろんなメーカーさんに紹介したりしながら協業する相手を探しています。
研究としてのAI・ロボットではなくて、あくまでもビジネス化・製品化するのが目標なので、それに向かって日々いろんな準備をしているところです。
–伊藤さんはもともとシステムエンジニアということですが、AI、人工知能に興味を持たれたのはいつ頃でしたか。
伊藤 実は、私が大学生の頃……30年も前ですけども、当時も人工知能ブームだったんです。第2次人工知能ブーム、と言われる頃ですね。ちょうどコンピューターがいろいろ発展してきて、お医者さんの問診システムや、電車のシミュレーションを作るといったことは当時の人工知能でも可能でした。しかしやはり、まだ大したことができなかったので、「知能」といえるほどではなかったんですね。技術者から見ると、ただのプログラム。人間が教えたことしかできないし、コンピューターの処理システムも早くなかったので時間がかかって、あんまり使えないなと。ここでちょっとブームが去って、それからまた25年ぐらいたって今に至るわけです。
4、5年前にアメリカでまた火がついて、この1、2年で日本にもブームが来て。今が第3次人工知能ブームと言われています。
ですので、もともと興味があったというよりは……、触れていたんです。30年も前から、実は。
1本のテレビ番組がロボット開発のきっかけ
–伊藤さんはロボットに人工知能を搭載したプロトタイプをたくさん作ってらっしゃいます。いわゆる「ロボットエンジニア」としての面もお持ちですよね。そういった取り組みはいつ頃から始められたんですか。
伊藤 ロボットを作り始めたのは2015年の夏なので、実は結構最近なんです。
–何かきっかけはあったんですか。
伊藤 そうですね。ある日NHKのテレビを見ていたら、アメリカのロボットコンテストの様子が放送されていたんです。日本のチームが複数、出場していたんですが、当然トップにいるかと思いきや、ボロボロで……負けてしまって、ビリのほうだったんですよ。そのとき優勝したのはお隣の韓国。それを見て日本人としてショックを受けまして。「あれ、日本ってロボット世界一になったんじゃなかったっけ?」と。その時、天の声がして「おまえがやれ」と言われたように感じたんですよね。
それから少しの期間、取り憑かれたようにロボットを作ってみたら、第一号となるロボットがひょこっと完成してしまいまして。
取引先のメーカーさんの勧めでビジネスコンテストに出してみたらインテルのコンテストで優勝してしまいました。それで、これはもう運命だと思って、取り組んでいます。
–個人の目標としてはオリンピックでの商用化を目指す、と。それに向けて、今、色々な種類のロボットを開発されていますよね。
伊藤 そうですね。ヒューマノイドの形でいろんな職業を持たせています。
最初にできたバージョンは案内のコンパニオンロボットですね。伝統的な接客をして、お客さまの誘導などを行う。お客さまのご機嫌をカメラで撮って顧客度満足度をチェックすることもできます。
次に作ったのはナースロボット。お年寄りの話し相手になったり、検温をしてデータを収集して、人間のナースが訪問介護に来たときに申し送りをすることも可能です。
銀行の窓口相談をするロボットもあります。投資相談をする「ロボアドバイザー」というウェブ上のソフトは既に実現しているんですが、それのボディを持ったプロトタイプで、実際に銀行の無人店舗のようなものを可能にするようなベースを作りました。
次に通訳ロボット。英語、中国語を理解するような音声変換ソフトを持ったロボット。これなどはオリンピックで多分、活躍できるだろうなと思います。
あと、ちょっと変わったところでは調理ロボットですね。簡単な焼きそばとかサラダの盛り付けぐらいなんですけど、そういったものを人間の代わりにやってくれます。多分この辺りにはかなり需要があるんじゃないかと。あくまで人型にこだわって、人と一緒に暮らせるようなロボットを作ろうと思っています。
ロボット開発を始めて2年で、5体以上のプロトタイプ完成。
ひらめきの瞬間は?
–今、いろいろなタイプなロボットの種類を教えていただいたんですけど、そういったアイデアというのはどういったときにひらめくんですか。
伊藤 そうですね。結構、寝ている時とかによく思い付きます。寝ていて、夜中の2時、3時ぐらいに夢を見ながら思い付いて……、次の朝になったら絶対忘れちゃうと思って、起きてメモしてまた寝るとか、しょっちゅうですね(笑)。あとお風呂の中も多いで。お風呂の中で思い付いて、このままあと30分覚えてられる自信がないので、慌てて体を拭いて、1回メモをして、また帰ってきて入り直すとか。そんなこと年中ですね。
私、名字は伊藤ですが、母方をたどると平賀といいまして、エレキテルの平賀源内の家系なんですね。ですので、アイデアマンなところがご先祖さまにも通じるのかなとも思っています。
−ありがとうございました。後編では、エンジニアとして伊藤さんが大切にしていらっしゃることなどをもう少し深く伺っていきます。(後編に続く)
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