「仕事ではじめる機械学習」著者座談会:後編 ビジネスの課題解決こそがゴール【AI people:vol.7】

インタビュー

話題の書籍『仕事ではじめる機械学習』(O’REILLY)の著者である、有賀康顕氏(@chezou)と中山心太氏(@tokoroten)へのインタビュー(中編はこちら)。最終回では、エンジニアのスキルアップにおいて意識したいポイントを中心に話を伺いました。お二人の推薦図書もご紹介します。

 

機械学習は道具。ビジネスの課題解決はまた別のお話

 

ーAIエンジニアがスキルアップをしていくためにはどのようなことを心がけると良いでしょうか。

 

有賀 このインタビューの冒頭でもお伝えしたんですが、あくまで機械学習は道具なので、「何をすればビジネスの問題を解決できるのか」をよく見ておくことが重要ではないでしょうか。

問題解決パターンの引き出しが多いかどうかで最初の問題提起ができるかどうか決まってくると思います。この本にはそんなにたくさん書いてないんですけど、そういった経験はKaggleなどで積むとか、論文を読むとか、ニュースなどをよく見て他社の例を日頃から調べておくといいと思いますね。

 

中山 結局、機械学習って人間の業務のオートメーション化ですからね。そう考えると、「プロセスの最適化」がメインの課題になります。要はプロセスエンジニアリングの話なので、プログラミングとか機械学習とかとは関係なく、業務プロセスに対する理解がないと、最終的には機械学習の問題に落とせないんですよね。

だから、機械学習の理論だけ勉強しても、なかなか本番まで持っていけないっていうのは、恐らくそういったところに課題があるんだろうなって思います。こういうプロセスを組んだらここに機械学習を突っ込めて、トータルとしてこういうふうに改善しますっていう、一連の流れが提案できると強いんですね。「ここに機械学習入れます!」と言っても、じゃあ、それってトータルでどれぐらい良くなるのって聞かれた時に答えられない人が結構多いので。

 

ーなるほど。

 

中山 「機械学習で何人削減できます」とは言えるけど、「その機械学習がミスったときにどうしたらいいの」と聞かれたときに答えられなければ、プロジェクトとしては頓挫しますよね。

だからビジネスの全体設計を勉強していくことですね。業務プロセスや会社の意思決定フローを、他社事例も含めて勉強しておくことが特に重要だと思います。

 

ーなるほど。勉強法としては何かオススメはありますか。

 

中山 ニュースを注意深く見て、フェルミ推定でいいので、プロセスや人数から「この変更でこれぐらい削減されただろう」みたいな数字をはじいてみるとか。あとは業界ごとにバリューチェーンになっているのかサプライチェーンになっているのか、眺めておくといいかな。

 

有賀 僕は多分、ちょっと攻め方が違うかな。

僕はコンサルティングもするんだけど、「こういうふうにやりたい」という現場の想いを拾って、そこから広げるという事例をたくさん知ることをオススメします。

例えば、昨年、キユーピーが離乳食向けのじゃがいものダイスカットの中からTensorFlowを使って色が少しおかしいカットを検出することに成功した、というニュースがありました。今までパートのおばちゃんたちが目検でやってたのを自動化したんですね。そういった話を見て、なるほど、こういう問題を解決するときにはこのアルゴリズムを使ってやればできるんじゃないか、と考えてみる。システムとしてはこういう流れだよな、と想像して。

 

中山 そういう意味だと、末端のオペレーションを知っておくことも重要ですね。どれぐらいいろんなことが人力で行われているかを知っておくこと。

有賀 そうですね。僕も中山も、かつて大企業に勤めていて、その環境を見ているので強いかもしれませんね。

 

「ビジネスの課題解決能力」を上げるには日頃からアンテナを高くして問題解決パターンの引き出しを多く持っておくこと、と語る有賀氏。

 

ー機械学習に限らなくていいんですが、お二人のオススメの書籍があれば教えていただけますか。

 

有賀 そうですね。幾つかあるんですけど。『LEAN ANALYTICS』『RUNNING LEAN』かな。リーン手法、最近いろいろ批判もあるんだけど、機械学習の目的設計を考える上で、この2冊は読んでおいて損は無いと思います。特に大企業だと、まず最初に売り上げ目標を立てるみたいな、そういうところからスタートする感じになっちゃうんですけど、そうじゃなくて、課題は何で、それを解決すると誰が喜ぶのかを「リーンキャンバス」を用いて深掘りしていく。

大きい企業にいると、上から降ってくる仕事を黙々とやるだけになってしまうというパターンが多いので、フレームワークを一つ知っておくと良いと思います。

 

中山 そういったフレームワークを使うと、「人から与えられたゴール」が「自分で決めたゴール」、「自分ごと」になるんだよね。

 

有賀 まさにそう。プロジェクトの成功確率をあげるのって、やっぱり「自分たちがやりたいことを、情熱を持ってやる」ということに尽きますからね。

 

それからもう一冊。ちょっと毛色が違うんですが『異文化理解力』も面白いですね。この本によって「ものの見方の違い」と「どうやって違う価値観の中でまとめていくか」について改めて考えることができました。

例えばアメリカでプレゼンをするときには「最初に結論を掲げてそこから細部を話す」というスタイルが好まれるんですが、それをドイツでやったら「おまえは俺たちをバカにしているのか」と言われた、と(笑)。

ドイツでは一から順番に積み上げていくことを良しとする文化があるんです。

国によって考え方は全く違うんですね。Twitterとかで、欧米ではこうだよみたいなことを言う人、煽る人がやっぱりいるんですけど、それはポジショントークだよなっていうのを、それを読んだ後ですごく感じるようになりました。

 

あと、もう1冊だけ。有名な行動経済学の本で『予想どおりに不合理』。

 

中山 あれもいい本だね。

 

有賀 あれを読むと、いろいろな実験結果がわかりやすく理解できるのでいいと思います。人間がどんな風に行動するのかを知った上でプロセスや業務、プロダクトのことを考えていけると、エンジニアとしても成長できるんじゃないでしょうか。

 

ー中山さんは。

 

中山 機械学習じゃなくていいのであれば、『技術の創造と設計』がお勧めですね。内容自体は機械設計者の教育の本なんですけど。組織がどういうふうに衰退していくかとか、良い技術者になるために知っておくべきこと、技術者のグループをどうやってコントロールしていくか、という内容が書かれています。

 

あと、『GE 巨人の復活』。あれはめちゃくちゃ面白かったですね。

日本の、言葉を選ばずに言うところの「文系企業」では、情シス部門が花形にはなりません。彼らは事業のコアではない、と考えられているから。逆にGEは「デジタルが会社のコアだ」という方針にかじを切り直した。そのためにGEが何をやったかっていうのが全部載っていて、それが勉強になりました。

 

 

―ありがとうございました。今後もお二人のご活躍に期待しています!

 

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